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切な系100のお題>もしも許されるなら |
それが叶わぬことだとは、分かっている。 だけど縋らずにはいられない。 だけど信じずにはいられない。 たった数ミリの可能性を、祈らずにはいられない。 見慣れたガラス色の髪を揺らして、彼女はいつもとは違う笑顔を浮かべた。今まで見たことのないような、か細い笑顔。 「ネミッサ…」 の呼び掛けに優しく微笑むと、彼女は俯く。 「アタシ、行かなきゃ。マニトゥの元に…アタシ達の世界に。」 「……」 「マニトゥの願い、叶えてあげなきゃ。それがアタシの使命…アタシが生まれた意味だから。」 握り締めた拳。その細い肩を抱き寄せて、行くなと告げることは許されない。彼女が選んだその道は、に止めることは出来ないのだから。 「…アタシ、悪魔だけど…もし神様が本当に平等に愛をくれるのなら、マニトゥにも愛をくれたはずよね。アタシにも、他の悪魔達にも。でも、アタシは神様に愛はもらってないよ。愛をもらったのは…と、ヒトミちゃんや仲間達。『人』に愛をもらったの。」 透き通る髪を一度指で梳き、の目を見据えて言う。 「……アタシは、あなたといたい。」 「ヒトミちゃんとも…スプーキーズのみんなとも。このまま、ずっと一緒にいたかった。」 「…ネミッサ。」 「だけど、出来ないの。」 誰もが望んだわけではない。彼女も、も。だけど、ただひとつの存在を慈しむ心が、その道を選ばせる。切なく悲しい命の叫びを、受け止めるために…マニトゥの心を救うために、彼女はマニトゥと共に歩むことを選んだ。 「…もし…」 続きを言おうとして、ネミッサは口をつぐんだ。そして、に笑いかけ、 「アタシ、忘れないよ。のこと…」 そう言って、目を瞑る。 「だから、きっと……」 「……」 少しの沈黙。肺がぎゅっと痛む。 「さあ、ヒトミちゃん、目を覚まして……」 柔らかい風が吹き、瞳の体から青白い霊体が離れた。頬を撫でるような風に乗せて、甘く懐かしい香りが届く。優しい、匂い。 今まで見てきた姿とは全く違うのに、ずっとこの姿を見てきたような錯覚に陥った。当たり前のように。いつものように。そうして、ネミッサが遠くへ消えていく姿を、何も言わずに見守った。ただ出会ったあの瞬間を思い出しながら。 瞳がゆっくりと瞼を開ける。もう、ネミッサの姿はない。しばらく瞳は虚空を見つめて、そして優しく笑った。 ――数日経って… 瞳はにあの時のことを話した。 「ネミッサが私から離れる時、こう言ってたの。『きっとまた、会えるよね。』って。」 「ああ。」 「だから私も、サヨナラは言わなかった。」 「…ああ…そうだな。」 「もしアタシが悪魔でも神様が許してくれるのなら…アタシ、迷わずに神様に祈るよ。またみんなと会えること。もしも許されるなら、それだけ叶えたい。」 栗色の髪を揺らして、ついこの間までネミッサのいた体で…ネミッサが喋っていた唇で、瞳はそう言った。 「私の言葉じゃないわ。ネミッサが言ってたのよ。あのネミッサが。悪魔なのに…神様に祈るって。」 「ネミッサ…馬鹿だな…」 「え?」 「もし神様がいるなら、悪魔だから許さないなんて器が小さいわけないだろ?だから…きっと会えるよ。」 「ふふ、じゃあ、またネミッサに会えた時…がネミッサのこと『馬鹿』って言ってたことを言わなくちゃね。」 「それは勘弁してください。」 春の強い風が吹いた。瞳は髪を押さえて目を細める。 「今はネミッサ、ここにいるよね。」 胸を押さえて、瞳は笑う。 「ああ。」 思い出じゃない。 確かな存在として、ネミッサは自分達の中にいる。 もしも許されるなら 悪魔と人との間の愛を。 人と悪魔との間の情を。 どうか神様、認めて欲しい。 愛すべき人と共に居られることを どうか神様、祈らせて欲しい。 Amen. |
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