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切な系100のお題>006.籠の鳥 |
さっきまで四角く切り取られていた青い空を、いまは全身に浴びている。仰いだ空はまさしく快晴で、気分までもが晴れ晴れとするものだった。 逃げた小鳥を探しに来たが結局見つからなかった。今頃は自由になってこの空の下を元気に飛び回っているだろう。こう天気がいいと、かごに戻すのは忍びないかもしれないな。などと、数珠繋ぎに色々なことを考えていた。 口から伝って頬を濡らす生温かい血が、彼に警告している。タイムリミットが近いことを。 小鳥が見付けられなかったことを少女に謝らなくては。彼はまだ考えていた。死を前にしても案外と小さなことを気にするものだ。もちろん彼にとっては重要なことなのだが。しかし、そこまで考えたところで、彼は最も重要なことを思い出したのだった。 死に対する恐怖はなくなったが、今度は焦りが強くなっている。伝えなくてはならないことがあるのに。神に祈ったことのない彼が、奇跡を待った。もし神が居るのなら、今からそちらの世界へ行こうという人間の、最期の頼みくらい聞いてくれるだろうと。もしかすると地獄行きかもしれないが、それならなおさら憐れんでもくれよう。 きれいなインコは外の世界を望んだ。 真っ黒なカラスはかごの中を望んだ。 インコは外の世界を夢見ていた。だからかごから飛び出した。 カラスは飼ってもらいたかった。だけどかごに入れてもらえない。 もしも立場が逆だったら、幸せになれたのだろうか。 もしも立場が逆だったら、何か変わっていただろうか。 遠くで名を呼ぶ声が聞こえる。視界に入ってきた男を見て、直人は安堵を覚えた。男は直人の上半身を抱え起こして、頭からつま先までをゆっくり眺めた。地面に染み渡る血の海と腕の中の直人の姿は、状況を把握するには充分過ぎる材料だった。 「…よぉ。」 今にも泣き出しそうな顔の男に、明るく投げ掛けた言葉。男は声もなく、黙って見つめ返していた。そして小さく『どうして』と呟いた。 直人は思う。そんな声を聞くために奇跡を待ったんじゃない。伝えるべきことを伝えるために、神ってヤツに縋ったんだ。そして、それが大切なことだと判断したから、そいつは奇跡を起こしたんじゃないのか?今ならそう思える、と。 腕に嵌められたVコマンダーを引き剥がして、男に差し出した。 「やるよ…浅見。」 竜也の曇った表情は変わらない。ただ、直人の意志を受け止めようとそれを受け取った。 「…おまえは、変えてみせろ…」 伝えたかった言葉。託したかった想い。それはVコマンダーと共に渡した。これでもう、安心だ。そう思うと自然と口元には笑みが浮かぶのだった。 きれいなインコは外の世界を望んだ。 真っ黒なカラスはかごの中を望んだ。 今からでも変えることが出来るだろうか。 運命と言う名のかごに入れられた、鳥達を助けられるのはおまえしかいない。 |
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