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切な系100のお題>008.天上の青 |
さあ、おいで。私の可愛い子。 空はどこまでも広くて、とても優しい風が吹いているの。 さあ、怖れないで。 あなたにその可愛い翼がついていることには、きっと意味があるはずよ。 大丈夫、あなたなら飛べるわ… いつも傍に居た優しいママ。 あの日もママに促されて、励まされて初めて空を飛んだ。 いつもフーの前を泳ぐように飛んでいた、大好きなママ。 フーがちゃんと着いて来ているか確かめてくれるのが嬉しかった。 「フー、逃げて!」
「いや!いやだ!ママも一緒に逃げるの!」 「一緒にはいけないの…!お願い、ママも後で行くから…!」 冬の夜の寒さに震えていると、フーの体を抱きしめて眠ってくれた。 ひとつだけ果実を取ってきた日は、フーにだけ食べさせてくれた。 「痛い、痛いよ…ママ!」
「フー!」 「食べないで、フーはおいしくないよぉ…!」 「お願い、この子は食べないで…!お願い…!」 ふわふわの毛が気持ちよかった 羽繕いしてる姿がきれいだった 透き通った優しい声が心地良かった いつもみたいに、一緒にお散歩に出掛けてただけなのに…… 「ママ、こっちに来て!落ち葉が沢山あるよ〜!」
「フー、駄目!ママから離れちゃ駄目よ!」 「キャアァァァァ!ママぁぁぁ!」 「グレートボア…!フー!!」 ママ… ママ…… 「…!」 鼻先に落ちた夜露で目が覚めた。頬の毛が濡れて張り付いているのが分かる。涙が頬を伝った後だ。 くぅ、と小さく鳴いて空を見上げる。さっき夢で見た青空とは違って、圧し掛かるような深い闇が広がっている。 視線を落とすと、消えかけた焚き火の周りでランディたちが寝息を立てていた。 ゆっくり記憶を現在に引き戻す。 ああ、そうだ。フーはみんなと旅をしているんだった。 遠くで仲間の鳴き声が聞こえる。寂しそうな声。フーと同じで、悪夢に目を覚ましたのだろうか。 あの日の夢を見たのはこれで何度目だろう。こんな夢で目が覚めると、決まって泣き叫びたくなる。だけど今はランディたちが居るから、彼らを起こすまいと叫びを堪える。それが良かったんだと思う。泣き叫ぶと悲しみがどんどん増してきて、やがて体を支配してしまうけど。無理にでも堪えていると、やり過ごすことが出来るから。 そうしてやり過ごせると、今は彼らが傍に居るのだから寂しくないと思える。 大好きだったママは…居ないけれど…。大好きなみんなが今は居るから。 「…フラミー、目が覚めたの?」 その言葉に気が付くとプリムがこちらを見つめていた。 「キュ…」 心配しないで、もう大丈夫だから。 「そこは寒いでしょう?こっちにおいで…あ、焚き火消えそうね…」 焚き木を焼べ直そうとするプリムの傍に近寄り、鼻先でプリムの体を自分の胸に寄せた。 「あったかい…いつもフラミーと眠れたら暖かくていいのにね。」 ふふ、と笑ってプリムはフラミーの首筋を優しく撫で始めた。フラミーもそれに目を細める。 「でも、フラミーもおうちでゆっくり眠りたいよね。ここは寝つくまでがうるさいし…今日だって、ランディとポポイがケンカしちゃって、随分寝る時間が下がっちゃったでしょ?」 「クルルル…」 「でも、私はそんな賑やかなのに助けられてるよ。ディラックが討伐隊に選ばれそうだって噂を聞いた日から、不安で眠れなかったもの…。一人で居ると色々考えちゃって…でも、ここは騒がしさで気が紛れるからいいね。」 「きゅう!」 「フラミーもそう思う?女の子ってどんなに気が強そうに見えても、本当は繊細で寂しがり屋なのよね。男共はそれに気付いちゃいないんだから…」 喋りながら撫でていた手がだんだん疎かになって来た。眠たくなってきたのだろう。フラミーは返事をするのをやめて、プリムの体に首を絡めた。 「…たまにはこっちにも顔見せてね…寂しく…ないよ…」 いつの間にか、フラミーも眠りに落ちていた。 背中にみんなを乗せて、青い空を飛んでいる夢を見た。 青い空はママの羽の色にそっくり。ママはこの空になったんだ。 空はどこまでも広くて、ママの腕の中みたい。 優しい風に乗って、ママの声が聞こえてくるみたい。 大好きなママ、見てる? フーは大好きな仲間と、ママの空を飛んでるよ。 いつも傍に居る優しいみんなと一緒に、天上の青を飛んでるよ――… |
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