切な系100のお題>010.遠い記憶


 鈍く光る鉄。低く唸るような歓声の塊。
 漂うのは機械油と硝煙の香り。
 目を覆う赤。叫び声。
 幾重にも重なったベールの向こうで、現実感無く起こる出来事。
 そこに意思は無い。
 疑問も無い。
 嫌悪、快楽、何も存在しない。
 そこに存在するのは事実だけ。



 ハッと目が覚めた。
 また、あの頃に帰っていた。
 汗でじっとりと濡れた服が肌に張り付く。
 ゆっくりと起き上がり、辺りを見渡す。
 “現在”である事を確認するかのように。
 見慣れた宿屋。焼けた蝋のにおい。
 仲間の寝息と、虫の声。

 あの事実が“過去”である事を再確認して、また布団に潜った。







 最短かつ不親切設計。雰囲気だけですね。
こういう単語を切り張りしたように書くのは好きなのです。だから体言止めが好きなのかっ。
BACK