切な系100のお題>013.ねがい


 真っ白な世界の中心で、ランディ達は途方に暮れていた。
 日が暮れるまでに村へ帰るつもりで森を探索していたのだが、雪に埋まった森はどこもかしこも似通った風景で、おまけに自分たちの残してきた足跡さえたちまち雪に塗り込められてしまう。そうしてあっさりと道に迷ってしまったのだった。
 辺りは既に赤らみ始めていて、日が暮れるまでに村に帰り着くのが難しいことを如実に物語っていた。
「ちょっと、ランディ。」
「な、なんだよ…」
「私はランディが道順覚えてるっていうから、着いて来てあげたんだからね!『ワッツに打ってもらった剣の切れ味を試してみたいんだ』とか言っちゃってさ、夕方までには必ず村に帰るって約束忘れたんじゃないでしょーね!」
 プリムに指摘されて、ランディは萎縮している。視界の端でポポイがケラケラ笑っているが、自分が撒いた種なので怒ることも出来なかった。
「約束は忘れてないけど…まさか迷うなんて思わなかったからさ…」
「だからランディは頼りないって言われるのよ!」
「誰に言われてるって言うんだよ!」
「私に。」
「……」
「あーあ、本当は村に残って、暖炉で暖まりながら蜂蜜たっぷりのホットミルク飲んでいたかったのに…」
 言いながらその状景を瞼の裏に描くと、あの時断らなかったことが一層悔やまれてきた。
 三人とも村で貸してもらったコートを羽織ってはいるものの、吹きつける風が隙間から入り込んで容赦なく体温を奪っていく。温かい部屋に一刻も早く戻りたいのも無理はない。だからこそ、ランディに怒りの矛先が向いているわけだが。
「私、こんな雪山で死んじゃうのね…」
「縁起でもないこと言うなよ。」
「だって、日が暮れたらどんどん気温は下がるのよ?三人で凍え死ぬんだわー!」
 膝をついて泣き出すプリムに、ランディは掛ける言葉もなかった。頭の中ではこれまで歩いてきた道順を辿っているのだが、この寒さが脳の働きを鈍らせているのか、記憶は曖昧だ。
「ネエちゃん、泣くなよ。アンちゃんにはオイラの子分として、しっかり責任取ってもらうからさ!」
「おチビちゃん…」
 そのポポイの言葉にようやく落ち着きを取り戻してきたプリムは、立ち上がって小さく頷いた。
「ネエちゃん、ごめん。オイラがもっと子分の不出来に気付いてれば…」
「何言ってるの、おチビちゃんが悪いんじゃないよ。悪いのは―」
「あー!なんか道順思い出してきたかも!!」
 二人の嫌味をかき消すようにランディは声を上げた。
「本当!ランディ!」
「さすがオイラの一の子分!」
 さっきまでネチネチと攻撃していたのに、掌を返すようなその態度にランディは密かにため息をついた。



 銀世界とは良く言ったものだ。空から舞い降りてきた雪の結晶は、森を埋め尽くして全てを白く塗り変えていく。土の黒も、微かに生きていた草木の青も、そして水の上にさえ雪は積もる。そうして覆い尽くした白は光を浴びて銀色に輝く。その様はまさしく銀世界。
 きれいだとは思う。傍から見ていれば。だけど、そこで生きていく動物達にとっては、その美しさは残酷に映る。
 雪は綿ではない。氷はガラスではない。埋め立てられた草木を生きる糧とする動物達は、日に日に雪に蝕まれていく僅かな緑を、途方もない白い世界から探し出して生きていかなくてはならない。それが出来ない動物は自身も雪へと蝕まれる他に道はないのだ。



「トド村?随分逆方向に来たもんニャあ?」
 先ほど威勢良く出発したランディ一行は、トド村への地図を書いてくれているニキータの前に居た。ランディは両側からの刺さるような視線を避ける気力も起きず、ただただ呆れた様子のニキータに頭を下げるばかりだった。

「結局、思い出してなんかなかったんじゃない。あーあ、褒めて損した。」
「そ、そんな言い種はないだろ?」
「だからアンちゃんは詰めが甘いって言われるんだよ。」
「誰に言われてるって言うんだよ!」
「オイラに。」
「……」
 肩身の狭い思いをしながら、ニキータの書いた地図を見つつ歩みを進める。ようやく村に帰れると希望が見え始めた瞬間だった。

 それから一時間あまり歩いて辿り着いたのは、以前サラマンダーと出会った村だった。
「ニキータ間違ってんじゃないかよー!!」
 もはや歩く気力も失われ、三人で脱力して座り込むしかなかった。
「ニキータがタダで動いてくれるなんて、おかしいと思った…」
「本当…腐っても商売人ね…」
「オイラ腹減ったー!」
 日もすっかり落ちこれから森に入るのはむしろ危険だということで、今夜はこの村で凌ぐこととした。村に人は居ないとは言え、廃屋も残っているので凍死は免れたというわけだ。焚き木を燃やして暖を取り、埃っぽいベッドに入った時にはようやく生き心地を取り戻した。

「明日はちゃんとトド村に帰れますように…」
「…蜂蜜入りのホットミルクが飲めますように…」
「…オイラ腹減ったー…」
 それぞれの願いを抱いて、北国の夜は静かに更けるのだった。


 それからランディ達がトド村に戻れたのは、三日後だったらしい。







 各お題で何を書くかを考えている時、このお題は聖剣伝説2しかない!と思いました。もちろん元ネタは、クリスタルフォレストの曲『ねがい』からです。『ねがい』大好きなんですよー。
あの透明感のある少し切ない曲通りに、悲しいお話を書く予定だったのですが、救いがなさすぎたので路線変更。コメディタッチの小説はまだ並んでなかったはずなので、その方向で書いてみました。とりあえず、ランディが可哀想(笑)。自分で書いときながらなんですけど。コメディなのかなんなのかよく分からない小説になってしまいました。
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